フランスの米事情


パリ界隈で入手できる米はいくつもあるが、それらの中で日本人の味覚にかなうものがどれだけあるが?スーパーマーケットにはパスタ、麦、クスクスといっしょに米が並んでいる。長い米、丸い米、味つき米、色のついた野生の米などなどいろいろ揃っている。日本人の慣れ親しんだ丸くて短い米は産地の違ういくつかを見つけることができるが、日本のご飯として食べるにはいまいちである。おいしくないのではなく明らかに違うのである。産地は当然ヨーロッパ、イタリアであったり、スペインであったり、フランスではカマルグという南仏の地方で作られている。一方、日本人の求めるアジアな米はアジア中華系、韓国系および日系の店で入手できる。その中で明らかに日本人あるいは日本食をターゲットにした米をレヴューしてみよう。なお、登場する米の名誉のために名前はすべて伏せられている。万が一銘柄を推測できたとしても正解は答えられない。また、各米に対する印象は個人的なものであり、多くの人が認める多数意見ではない。
間違い無く日本にいるのと同じくおいしい米は日本からの直輸入米であるが極めて高価である。一度だけD店でKという品種の直輸入米を購入したことがあるが、変質、劣化などもなくおいしかった。ちなみにこのような高価なものにはおいそれと手は出ないのであるが、このときはDの閉店セールでほぼ半額で入手した。後にも先にも直輸入米を購入したのはこれだけである。
我が家のデファクトスタンダードであるMは炊きたてこそなかなか味であるが、一晩置いて冷めた後はもはやその姿は無い。冷めた後の味と言うのは実は重要なファクターであり、それはおにぎりの品質を意味する。また、米のとぎ加減、水加減でずいぶんと味に差が出る実にデリケートな米で、ウチでは夫が米を研ぐとご飯がまずくなるので夫の炊飯は禁止されている。この米、日本の米と比較すると明らかに粒が大きいと言うのがわかる。
外国在住の日本人の定番、アメリカ産のNやRはその認知度とは裏腹にいまいちパッとしない。来るべき未来の日本の米貿易自由化を狙ってアメリカの農業が日本の米の品種と味覚を研究し、とてもおいしい米をもって大規模農場から格安で攻めてくる、と言うのがアメリカの米に持つ印象であった。しかしこれらがアメリカ農業の切り札だとすると、アメリカの米はいくら安くとも日本では売れない。同じくアメリカ産のSにいたってはかつてのタイ米ブレンド米を彷彿させる味と香りである。タイ米の名誉のために加えておくと、タイ米が決してまずいということは無くタイ料 理にして初めてその力が発揮されるのである。飲屋で酔客に水で2、3倍に薄めた日本酒を出すように、水がエビアンでも利根川の水でも、同じように無駄なことである。
ところがである、最近店頭で突然見かけるようになったKはアメリカ農業の本当の姿を見せてくれたのである。米は主食にもかかわらずもったいぶった小袋にパッキングされ、しかもインチキくさい精米法を掲げているとあっては胡散臭く感じるのはとうぜんである。ところが、その炊き上がりの香り、程よい粘りは他を圧倒するものがあったのである。
結局のところ言いたかったのは、どの米がうまい、まずいといったことではなく、最近試したアメリカ産の米が思いのほかおいしかったこと、これくらいのレベルなら自由化後の日本の米市場を脅かす可能性があるのではと思ったまでです。実際のところ食品のうまいまずいは極めて主観的なものであり、品種、銘柄のほかに産地という要素が舌以上に味を感じるのでしょう。
「まずい米で食事をするとご飯のまずさを補うためにおかずを一品増やさなければならない。ならば高価でもより良い米を選ぶほうが結果的に経済的である。」という意見がある(本当か?)。他の食材はともかく米だけは譲れない、米は日本人の魂だ(精神論は勘弁)とも言われる。日本食材はどれもが高くつく中で米だけは別格というのも考えられる。同じように日本に在住するフランス人が日本のバゲットがやたらと高価でパッとしない、その上入手困難な状況に文句を言いつつも日々求めつづけているのが想像できる。


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