海洋深層水

海洋深層水なるものが流行のようであるがまったくばかげた話である。そもそも、海の深いところの水を利用するという話はそれほど新しいものではなく、栄養塩の豊富な深層水を汲み上げて、魚の養殖に必要な餌の基礎となる一次生産、プランクトン類を増殖させる、海洋牧場なる構想があった。
ここのところの流行を見ると食品特に飲料に使用されている模様であるがちょっと待った。海の浅いところから取ろうが深いところから取ろうが海水には違いない。約3%の塩分を含んだまさに塩水である。これが食品、飲料に使われるのであるからまったくおかしな話である。しかも水として売られているのであるから、当然脱塩が必要である。海水の脱塩には逆浸透膜法が一般に使われるが、この脱塩方法を知ればおよそナチュラルからは遠い存在であることがわかるはずである。
その他、必須微量金属成分が豊富とか、溶存酸素量が多いとか、汚染が少ないとか、微生物が少ないとか・・・売り文句は沢山であるが、深い海の水の性状を語るもの意外はない。しかもこの性状が採水、脱塩、充填を経てボトル入りとして店頭に並ぶまで維持されている保証はない。微量金属は脱塩で他の塩類とともに簡単に除去されるし、酸素は一気圧の地上で溶解平衡に達するし、微生物汚染は水処理と切っても切れない縁にある。
深海からポンプで汲み上げ、脱塩処理された水の値段を考えれば当然ほとんど何も手を加えることのないミネラルウオーターより高価になることは必至。こんなものを水その物として売るだけでなく食品、飲料の原材料となるのであるから、どれほど使われているかわかったものではない。
と言うことで、海洋深層水はたしかに深層水は使われどもその正体は高度水処理技術によって淡水化された海水。さもなくば淡水によって飲むに当たり支障ない程度に薄められた海水。化学成分ではなく水の物性そのものに違いがあるという能書き、たとえばクラスターやら波動やらが登場となればますます眉唾。完全なイメージ製品である。
もちろんすべてが否定されたわけではない。何10何100という水源から得られたミネラルウオーターにそれぞれ効能がみとめられたように、未知の深海の水には何か秘めた力があるのかもしれない。それを明らかにするのは研究者の仕事であり、無意味な文句をただ並べるマーケティングのそれではない。

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