母音の練習、[ø][œ]


IPA tableいよいよフランス語の母音発声の練習である。本来ならここでフランス語の先生の発声を聞いたり、フランス語の教材ならその声を聞いたりして練習するものだが、これまでの流れのとおり、母音の分類と音声、音響的な特徴から母音を模索すると言うアプローチをとってみる。今回はフランス語の母音でも厄介な[e]の周りにあるいくつかの母音にいきなりアタックである。もう何度も登場しているが、母音表によると[ɛ]および[ø][œ][ə]は日本語の「え」から口の大きさを変えたり、舌の位置を変えたりして発声するということになっている。舌を後に持ってくると言うのは口腔内の空間が大きくなり、声がこもり気味になると言うことでもある。さっそく「え」を口の様子を変えて発音してみよう

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これは「え」を一番大きく口を開いたものから小さい口までの変化に相当する発声である。

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こちらは「え」から舌の位置を後にした音の変化に相当する。

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こちらはその両者を組み合わせたものである。

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最後に、このターゲットの音は[e]と[u]との間にあり、フランス語の教科書では「う」に近いとあるので、[u]から声色をかえて発音もしてみた。フランス耳を持っている人は実際にこのように声を出してみるとそこに正しい音が見つかるだろう。重要なのは自分の声を録音して聞いてみるとこである。自分自身が発声中に聞こえる声と録音して聞く声ではかなり違うものである。そして会話の相手が聞くのは当然後者である。録音したら、例のソフトウエアでフォルマント周波数を調べてみよう。

praat iconフランス語のこれらの母音はどのようなフォルマント周波数を持つか?Gendrot and Adda-Decker (2005)によると図のような分布になっていることがわかる。なおこの論文ではスピーチ中の発声長さによるこのフォルマント周波数の広がりの変化を示しているがここではその話は省略である。発声が長いほど母音の広がりが大きく、発声が短いつまり早口だと広がりが小さく、音の相違も小さくなるのである。図では日本語の発音とそれほど違わない[i]、[o]、[a]で作られる大きな三角形があり、問題の発音はそれらではたいした違いはなさそうだが、なにしろ日本人の知っているいずれの母音からも遠く、島のように孤立している。発声が難しいのも無理はない。ところでこのグラフ、これまでに登場したグラフとはF1/F2の軸が逆転している。またそれぞれの軸のスケールの取り方も逆である。しかし、それによって母音のプロットが丁度IPA母音表と同じ位置関係になっている。以降、このフォーマットを使うことにしよう。

このときのスペクトログラムを念のため見てみよう。音として違いが聞き取れるが、実際に声紋とフォルマント周波数はこのようにかわっている。周波数は微妙に変わっているのが判るが、変化は劇的ではない。

e-open e-gen e-combi

formant F1/F2 newそしてこれが、これらの新しい母音のフォルマント周波数F1/F2分布で文献から引用したプロットに重ねてみた。[e]から口の形、舌の位置、その両者、そして[u]からの変化がそれぞれ青、赤、緑、紫の線で示されている。手探りで声を出して正しい発音がすぐに得られるほど易しいものではないが、もともと[e]の発音からして文献値から大きく逸脱していることを考えると、赤と紫にそれぞれ一点が[ø]および[œ]に近くもないが遠くもなく、これらが聴覚上もそれらしく聞こえる。発音を忘れないうちにこの二つを含む単語を読んでもらうとこうなる。Je suis chanteuse [œ] / chanteur [ø]. 発音としてはいまいちだが、両者の違いがよくわかると思う。ひとつの単語(語幹)で男性形と女性形とでこのように語尾が変化するものはよくあるの重要な練習ポイントである。ちなみにJeの[ə]であるが、この二つと同じくらいあいまいで、発声中にはしばしば省略される。この被験者の場合、フォルマント周波数で[ø]および[œ]に最も近い音が実は日本語の「う」、[ɯ]であった。Jeは日本語そのままの「ジュ」と発音しているがそれほど違和感はない。むしろおかしいのは子音のほうであるようだ。

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参考文献
Impact of duration on F1/F2 formant values of oral vowels: an automatic analysis of large broadcast news corpora in French and German. Cédric Gendrot and Martine Adda-Decker, Interspeech (2005), p2453-2456.pdfファイル
23 février 2008


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