被験者


すでにお気づきの方もいると思うが音声の解析やサンプル音声で「被験者」と呼ばれている人物、実は生身の人間ではない。もちろんパリ近郊在住の私が日本人女性16歳(しかもフランス語をまるっきり話せない)を見つけてくるということ自体がインチキくさいであろう。ということで被験者の正体を明かすと・・・

hatsune miku

これは間違い

hatsune miku Vocaloid、市販の音声合成ソフトウエアである。
昨年(2007年)に発売されてからネット上ではかなり話題になったのでご存知の方も多いであろう。コンピューターの音声合成にして歌も歌える、ヴァーチャルアイドル歌手仕立てだ。それにしてもなんだってこのようなものをわざわざ買ったかって?それは・・・

「みっくみくにされたい」からである。

ええっ!?と思われるかもしれないが、しかしここで例えば、「興味本位で・・・」とか「知的好奇心が・・・」なんてまじめ答えを想像すればわかるが、まるっきり説得力が無いどころかその後ろに隠されたなにかイヤな下心を見透かされるようで・・・いったいどんな「好奇心」かって。なのでまさにオタク心でこれを手にしたと言うことにしておいてほしいし、そうありたいのである。したがって世間の「礼儀作法」はそれなりに守るつもりだが、ネギを振りながら歌う動画を作る予定は今のところ無い。

冗談はさておき、当初は自らの肉声でフランス語習得実験に挑んでもよかったが、客観性と再現性を重んじる科学では生身の人間を使うならそれなりのサンプルを用意しなければならないし、自らとなると主観の塊でどうなるかわかったものではない。しかも私はもはやフランス語初心者ではない(かつ上級者でもない)。というのは・・・

フランス生活情報サイトを始めて、一時はかなりの盛況となったが(しかしおっとのページは不入りである)、フランス語学習に関する話だけは絶対にやるまいと思っていた。そういうのは専門家やちゃんと言葉を習得したものこそがやるべきで、10年住んでもインチキ仏語で満足して者は手をだしてはいけないのである。一方で数年前に出張で日本に行った時に新幹線での長旅の暇つぶしのために買った本にあった幼児が母音を獲得すると言う話でフォルマント分析などをヒントに、語学とは違うアプローチで言葉を習得するのはどうかと考え始めた。そして昨年(2007年)の夏、このソフトウエアを発売前に知り、ねたを思いついたのである。しかし忙しいとかなんとかを理由に半年もねたを放置していたのはもったいないことをした。

音声といえば昔、コンピューターで音声合成をしてしゃべらせるというのを試みたことがある。もう20年も前のことだ。いまどきのPCではマイクからCDクオリティの音を取り込み再生することなど当然であるが、当時はごく限られたPCにしか備わっていなかった。音声は子音に相当する口や舌が作る過渡的なノイズとも取れる音と母音の本体、つまり声帯と声道が作る音の組み合わせで出来上がると何かで読んだ。なので手当たり次第に自分の声を50音で録音し、いろいろ分解組み立ててみたがどうもうまくない。たとえばサ行のほぼ閉じた前歯の隙間から出る風切り音も口の形やそれに続く母音に至る過程でかなり違い、SAのSとSUのSは別物なのだ。しかもこれでは棒読みだ。音程を変えようとすると声色が変わり(フォルマント周波数がずれてしまうのである)、いろいろ調べると音程を変えるにはとんでもなく面倒な計算が必要で、母音と子音のつなぎ合わせの波形合成とあわせてとても手に負えなくなり、途中で放り投げることになった。後の偉人が同じPC環境で、人声合成ではないが音楽用シンセサイザーとして8声のリアルタイム合成を達成しているのをみて唖然としたものだ。

同じころコンピューター支援による音楽と言うのにも興味があった。そのPCにはちょっとしたデジタルシンセサイザー相当の機能が搭載されており、それに加えて外付けの音源(ローランド)や本物のシンセサイザー(友人から譲り受けたヤマハDX-7、やはり人に譲ってしまったが惜しいことをした)も。それよりも前、PCがパソコンより前、マイコンと呼ばれているころ、たった3音しか出ないPCで音楽ができないかと試したものだ。坂本龍一がどこかに書いていた、未来には楽器を演奏するための厳しい訓練を受けなくともコンピューターの力で強烈なひらめきさえあれば音楽ができるようになる、というのを信じていたのである。学校を出て仕事を始めるころにはこの趣味も一段落して装置一式はお蔵入りとなった。一方でやはり生演奏もできなければと初ボーナスでクラビノーバを買ってしまった。目標はショパンをどれでもいいから一曲弾くはショパンの楽曲でも比較的優しい曲を選んで達成された。

この「初音ミク」を手にすると当然ながら久しぶりに何かを作ろうという気になってしまう。世の中は大きく変わったようで、いまどきは外部のシンセサイザーなどなくともPC内でヴァーチャルな音源を作ることもできるし、サンプリング音も扱え、いくつものトラックを自由自在にミックスさえできる。このデジタル音声を使ってかつてやりかけたYMOのカバーとかテクノ音楽に声をいれられるかな?とも思ったが、すでにとんでもない力作がニコニコにあるのを見つけたので・・・そもそもそんな時間がない。

参考文献(!?)
絵はsaNariさんから使用させていただきました(まったく、探すのに苦労しました)。
24 février 2008


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