フォルマントがいかなるものか理屈だけではわかりにくいので被験者の声をつかって実際に見てみよう。被験者は日本語をネイティヴに話す16歳の日本人女性である。当然ながら現在の日本では義務教育のみならず日々の生活で外国語に接する機会があるため日本語以外の言語では英語就学等の経験はある。一方、外国語発音に関してトレーニングを受けたことは無いらしい。生後の言語環境あるいは後の教育による発声の潜在性はともかく、現時点で日本語以外の母音を発声できることは確認されていない。まずは日本語の母音の音声とその周波数分析結果であるスペクトログラムを見てみよう。なおこの分析にはUniversity of Amsterdam, Institute of Phonetic SciencesのDr. Boersma and Dr. WeeninkによるPraatというソフトウエアを使用している。
お使いのブラウザやプラグインなどの条件がそろっていればここに音声再生用のプレイヤーが表示されているであろう。IEをお使いなら問題ないはず。そうでない場合はこちらのmp3ファイルへのリンクをどうぞ。まるでロボット音声のように聞こえるが、音程を変えずに「あいうえお」と発声しているためである。左の図は音声信号のPraatによる表示である。上はその波形、下は周波数分布を強度に合わせて濃淡で表したスペクトログラムである。全部で五つの信号がみえるが左から順番に「あいうえお」である。この濃淡が声の指紋、いわゆる声紋であり、際立って信号強度の強い周波数にはすでに赤い点線が引かれているが、これがまさにフォルマント周波数である。ここでは四ないし五個の周波数が同定されており、周波数の低い下から第一、第二と呼ばれる。そしてそのときのフォルマント周波数F1/F2が右の図である。ここには前回示した標準的な日本人のフォルマント周波数分布を丸印でしめしているが、これによると各母音の周波数の特徴があっているものもあれば結構ずれている。え[e]の発音で大きなずれが見られるがこの理由は不明である。これが生来の言語環境に由来するのかあるいは後のものかわからないし、方言的なものかもしれない。被験者の出身地は札幌とのことなので調べてみる必要があるかもしれない。なぜなら私も札幌出身だから。次に単一母音でも音程を変えながら発音したときのフォルマント周波数F1/F2である。
次に単一母音でも音程を変えながら発音したときのフォルマント周波数F1/F2である。C3はピアノのほぼ中央、ト音記号下のド、C4はそれから1オクターブ上のドの音である。本来ならば音程、ピッチ周波数に依存せず安定したF1/F2分布が見られるはずである。少々ずれているようだ。
さてこれから先は、この被験者に日本語にはないフランス語の母音を発音するためのトレーニングとなる。もしかすると著しくフォルマント周波数のずれた、え[e]の修正もひつようかもしれない。そのまえに被験者がどの程度のフランス語を発音できるかどうかを確認しておく。被験者には日本語とフランス語の例文の朗読を一つづつ、フランス語の歌を一つ歌ってもらった。トレーニングの進行によってどれほどフランス語がフランス語らしく聞こえるかというのを確認するためだ。
日本語だが、抑揚、アクセントは方言など土地に由来するものかもしれない。
有名なフランス語の詩の一節である。まさに日本人がカタカナでフランス語を読んでいるという感じである。
フランス語の有名な歌である。これもまたカタカナフランス語である。それにしても歌声はともかく、ひどい、ひどすぎる。Le temps des seriesesがLe temps des souriseに聞こえる。今年はねずみ年だからいいのか?
参考文献
Praat program by Dr. Paul Boersma and Dr. David Weenink, Institute of Phonetic Sciences, University of Amsterdam.ウエブサイト
15 février 2008