はやぶさの業績


2010年の理化学関連の大イベントと言えば他でもない、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還があげられます。おかげで本来ならトップクラスの科学ニュースであるノーベル賞受賞さえ脅かすほどではなかったでしょうか。小惑星への詳細探査、着陸と岩石サンプルの回収、そして地球へというNASAの10年先を行くような挑戦的なプロジェクトは、よく言われるような「工学実証」ですが、結果的に理学的には、いまだ誰も見たことのないへんてこな天体の姿を白日の下にさらすという業績がすでに評価されています。しかし世間的には満身創痍の探査機が60億キロメーターの長旅をおえて流れ星になったというお涙頂戴なところがよほど受けがよいのでは?イトカワへのランデブーから数ヶ月続いた探査、仕上げにサンプル採取と言った2005年あたりのイベントのほうがよほどエキサイティングであったと思いますし、この辺りがはやぶさ帰還以降惑星探査に目を向けるようになった「ファン」の人たちに共有されなかったのは大変もったいないことだと思います。個人的には、はやぶさの打ち上げは当時どうなっているのかさっぱりよくわからなくなっていた火星探査機「のぞみ」につづく探査機としてきになっていました。しかし、のぞみの1998年の打ち上げまでは都会の夜空のどこに火星が見えるかなど東京に住んでいれば気にもしなかったのが、その年フランスのパリ郊外で通勤帰宅に毎晩輝く赤い星をみて・・・残念ながら当時はネットで得られる情報も、フランスのネット事情も悪く、数年たって気づいたらもうあまりよろしくない状況になっていた。そんな状況での打ち上げと記憶しています。また宇宙開発事業団のロケットや衛星にも立て続けに失敗がありましたし。

さて日本で感動のはやぶさ、しかし実際のところ世界での評価はどうでしょう?ということでフランスで見つけたネタを紹介します。

まずははやぶさ帰還直後のニュースを扱った天文雑誌。

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オーストラリアでの再突入とサンプルカプセル回収を伝えています。カプセルの中身は開けてのお楽しみ。

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こちらは市立図書館にあった宇宙の図鑑。子供向けですが小学生高学年以上の内容でしょうか。

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はやぶさは米ソの冷戦時代の宇宙開発競争、「アポロ」、「バイキング」、「パイオニア」、「ボイジャー」といった輝かしい探査計画と並んで大きく取り上げられています。NASAの人類初の小惑星探査機を差し置いて2番手のはやぶさが。

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ちなみにこの図鑑を見渡すと当然ながら宇宙開発の主流はつねにアメリカとソビエト、ロシアにあり、フランスの出版社によるとはいえヨーロッパの存在感は残念ながら多くありません。ただヨーロッパの惑星探査といえば、日本が失敗した火星で「マースエクスプレス」という周回衛星を成功させ、日本が失敗した金星で「ビーナスエクスプレス」を成功させています。というとずいぶん日本はヨーロッパに遅れをとっているか・・・しかしもうすぐ打ち上げられる水星探査機は日欧合同計画である。イラストの探査機はJAXAが開発中の水星磁気圏探査機で、もう一機のヨーロッパの探査機とイオンエンジン推進でおんぶだっこで水星まで行く予定。名前は「マーキュリーエクスプレス」ではなく「べぴ☆ころんぼ」なる愛しい名前。

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宇宙探査は理学、工学の中でも極めてコストのかかるものです。探査機一機で数百億年、打ち上げのロケットで数十億円、運用でも年数億円。これに対抗できるのは量子物理学とか原子力関連の巨大施設くらいではないでしょうか。先端研究助成で予定されていたiPS研究で山中先生に50億円、スーパーカミオカンデで100億円、スプリング8で1000億円、国際熱核融合炉ITERで5000億円。「感動」で「日本を元気」にするにはずいぶんな金額ですが、理学工学での知への探求は金額であらわすことはできません。また真の意味での業績は一般ではほとんど知られることもなければ評価されることもないのですが、これこそはやぶさの業績であり、工学ミッションの完遂、2005年のイトカワ詳細探査につづいてサンプル分析の結果が出てくるこれからが本番となります。不死身の探査機が流れ星になってふるさと地球に帰って来たなんて喜んでいたって、それはほんとうの喜びのほんの一部なのです。以下、学術論文3報はいずれもはやぶさ打ち上げ前のものですが、はやぶさの快挙はここからはじまっているのです。もちろんあの川口教授が筆頭。

安価に小惑星サンプルをとってくる・・・

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Muses-C、世界初の小惑星サンプル採取計画!けどターゲットはイトカワではない

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進捗状況報告

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誰もが知っているはやぶさとちょっと違ったMuses-C構想図(上記2報目より)。可動式パラボラアンテナは通信事情を劇的に良くして、探査結果のデータ事情がちがっていたかも???しかしこの大掛かりな仕掛けをすてて得られたサバイバル性も・・・残念な結果に終わった火星探査機がぎりぎりで設計されていたという話があるとそう思わざるを得ません。

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