移動家族2


ある暑い夏の日、月曜日の朝であるが、いつものように会社に到着するとなんと、会社の敷地内、庭などが「移動家族」によって占拠されていたのである。オフィスの窓の外、会社の庭には彼らの生活が丸見えである。早速その観察をレポートしよう。
今回会社の敷地に来たのはほぼすべてフランス人、あるいは少なくともフランスのナンバープレートをつけた車である。キャンピングカーなど総勢50台以上(!?)。良く見ると通りをはさんで向かいの未造成地にも居る。さらに向いにはアラン・プロストのF1チームのオフィスがあるのだが、その脇の空き地にもいくらか陣取っている。
彼らにはきわめて組織力があり、というよりも組織としてしっかりしていなければこれほどの大集団を収容する地所を確保し、誘導するのは困難である。到着してまず行うことは水の確保である。会社の敷地にある散水用の取水弁から無断に水を取り、庭用のホースのような配管を、各キャンピングカーのそばまで引き回すのである。電気は一応、発電機のようなものを設置しているようであるが、どう考えても全電力を補えるものではないので水同様、会社の設備から盗んでいるのだろう。
次に行うのはどうやら清掃らしい。清掃といっても地所をきれいにしてくれるようなありがたいものではなくその逆、移動後の車、キャンピングカーの汚れを落とすのである。敷地内の芝の上だろうがお構いなしで、洗剤を使って車を洗うのである。
そして洗濯。彼らは洗濯機を持っている。棒と綱で即席物干し台を作るのであるが、なにしろ会社の敷地である。オフィスの窓の外すぐに洗濯物を干されてはたまったものではない。
食事は基本的に野外である。調理用の熱源はガスで小さなボンベにつながったコンロを使用している。もちろんバーベキューとなれば当然炭火である。食材はどこか近所から買ってきたものであろうが、生きた動物をその場で絞めて調理するということもある。この場合、動物はどこかの農家から盗んできたのであろう。
彼らの朝は遅い。社員が9時には仕事をスタートすることには誰一人として外に出るものは居ない。10時30分から11時ころから活動がスタートする。
とにかくやることはひどいことばかりである。外で馬鹿騒ぎされるだけで十分腹立たしいのだがその上、敷地内を自転車で走り回る、焼肉がくさいのは当然だがそれ以外にもおかしな悪臭がする、庭の池で魚を釣る・・・・・。

警察が何度か来ていたが、なにも手を出せないようである。フランスの警察はいまいち頼りないところがあるが、このようなケースは本当に手の打ちようが無いそうである。これが日本なら、私有地への不法侵入ということで即逮捕、強制排除ということになるであろう。こんなときは町の警察ではなく、空港で警備しているような自動小銃を担いだ憲兵のようなのに来てほしいものである。

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夫のオフィスからの眺め。こっちが暑い中まじめに働いているというのに窓の外ではクソガキどもが馬鹿騒ぎである。ガキが騒げば親も騒ぐ。彼らの物取りのための侵入を防ぐため、建物外側に面した窓はすべて閉ざされている。西日の入るオフィスでエアコン無し、しかも窓もあかないとなると地獄である。

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実験室からの眺め。同じである。

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社内レストランからの眺め。レストランの外には庭と噴水のある池があるのだが。

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そう、普段なら天気の良い日にここにテーブルを並べて昼食ということもできるのである。ここで食事をしていても彼らが危害を加えてくることはないであろうが、油断した隙にテーブルや椅子を持っていかれるのがオチである。

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会社の上の階からの眺め。もうガッカリ。


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