革命暦


フランスでは現在、いうまでも無いことだが、太陽暦を使用している。しかし、フランス革命直後から12年ほどフランス独自の奇怪な暦を使用していた。もちろん当時の日本はまだ徳川将軍時代、文明開化の明治までは太陰暦を使っていたはずだから今から考えれば精度という点では充分奇怪ではあるが。
1年は9月の秋分から始まり、1週間が10日、1月が30日で12の月がある。


vendémiaire
brumaire
frimaire
それぞれの月の名前の語幹は、ven/vin/ワイン、brume/もや霧、frimas/氷霜などからとられている。太陽暦の月名がいきなり神々の名から始まるのとは大違い。随分と詩的な表現である。1年が秋分からというのはフランスの新学期あるいは新年が9月に始まるのはこのころすでに定着していたということだろうか。


nivôse
pluviôse
ventôse
語幹で言うと、niv/neige/雪、pluv/pluie/雨、vent/風。革命暦が革命のお膝元、パリで作られたとするとなるほど、晩秋に霧が濃くなり、霜が降り、冬には雪が降るが太陽暦の年越し前後からは寒さよりも雨がちでどんよりしており、春まで続く。冬の終わりに風が強いかというと、さてどうだろうか。


germinal
floreal
prairial
またまた語幹でgerme/萌芽、flore/花、prairie/牧草。


messidor
thermidor
fructidor
語幹でmesse/?、therme/熱、fruit/実り。messidorだけはどんな語源かまるでわからない。辞書には「収穫月」とされているが、messeでそのような意味があるのだろうか?thermidorを挟んで収穫と実りがあるのは違和感があるが、初夏の収穫といえば秋播き小麦であろう。今の畑を見ると小麦(秋−春)、とうもろこし、菜種(他アブラもの)の輪作が見てわかる。晩夏の実りならまさに果物の新物だろう。

ここまで正確に月30日なら360日。残り5日あるいはうるう年の6日は国民の祝日だったそうだ。当時の革命家が貴族の半ズボン/culotteを履かないことからsans-culotteと呼ばれていたことからこの休みをLes sans-culottidesと命名したそうな。

この移り行く四季を表現した詩的な月の名前を聞くとどうも日本式の1月、2月、3月というのが書かれたカレンダーが恐ろしく殺風景に感じられる。日本は太陽暦の範疇でもかつての月の名前、睦月、如月、弥生を復活させても良いのでは?と思ったりする。ところがフランス人の中にはたとえば5 septembre 2004を5/9/2004と書くべきときに指折り月を数える人もいるほどであまり便利でない一面もある。個人的には、この革命暦の月の名前を見て最初に感じたのは、季節感とその風物、その向こうに見えるのはますむらひろし著のマンガ「アタゴオル」の世界観だったりする。

革命暦の真髄を知りたい方は、Googleで検索するともっと詳しい解説が手に入る。奇怪だったのはこの暦だけでなく、これにあわせて時刻の定義まで新しくしてしまったそうだ。1日10時間、1時間100分・・・当時のそして現在の60進法を捨ててあたらしい時刻を作ってしまったそうであるが、これは暦なんかよりもより奇怪である。しかし、現在の度量衡のSI単位系を作ったのはフランスで、SIとはフランス語でle systeme international d'unitesの略である。ルネッサンス以降、宮廷文化でヨーロッパの中心であったフランス、それ以降も2つ目の大戦で滅茶苦茶になるまでの近代文化の中心であったフランス、輝かしき世界の中心からは偉大なものが生まれると同時に妙ちくりんな物まで生まれている。この暦が使われた12年間、ヴェルサイユの主のクビが飛ばされてから、ジロンド派、ジャコバン派、サンジュスト、ロベスピエール・・・革命の残り香がすっかり消えナポレオンボナパルトの台頭までというやはりただならぬ時期だった

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