活字で学ぶ現代フランス口語


文法や単語や例文のある教科書をつかっての勉強はたいていの場合外国語を習得するための第一ステップである。生まれつき、あるいはものごごろがつく前から「言語環境」にあるのならばそんな努力の必要も無いが、たいていの場合そうでないので大変だ。私の中学、高校あたりの英語学習を振り返ると、それはもう大変であった。根性で覚えなければならないことが山ほどあって。しかしそれは今おおいに役だっているとも思う。一方そこではまるで習得できなかったのが、聞き取り、会話、口語である。これらはどうしても活字からは学べない。そして会話に必要なくだけた表現は教材にはあまりのっていない。出版社も汚い表現を載せるのには躊躇するのだろう。どうにかならないものだろうか。英語の映画を吹き替えナシでたくさん見る?

当サイトのネタなのだからここでは英語ではなくフランス語で考えてみよう。フランス語習得の環境は英語より厳しい。しかし何とか手に入る素材で口語を獲得できないものか。こういうことはちゃんとフランス語を習得したものが経験とかさねて紹介すべきなのだろうが、無謀にもチャレンジしてみた。つまりこれは私が今、実践している習得法なのである。「流暢に話そう」なんてネタが頓挫しているのに何をまたと思われるかもしれないがかまいやしない。

口語、会話表現は当然書き言葉とはかなり違う。発音、アクセントも朗読するのとは違う。それらがそっくりそのまま活字になっているのものが実はあるのだ。それはマンガである。そこには文法的には間違っている、そしてつづりもおかしい、しかし実際の発音に忠実な表現がのっているのだ。これを使わない手は無い。

さて今回のお題は・・・(次回があるのか?)

mangacours1 AZUMANGA DAIOH
なんとまたオタク!?なマンガをと思われるかもしれないがちょっとまった。この本は近所の公営図書館から調達してきたものである。そこにはマンガの公開書庫があり、古典である手塚作品、るーみっくワールド、などなどとあわせて比較的新しいものもそろっている。そこでひときわ異彩をはなっていたのがこれであった。公営図書館管理者が自信を持ってフランスの少年少女におすすめする一冊なのである。それにしてもマンガなんてもう何年も新しいものを自分で手にした事が無いので、このマンガは当然知らなかったし、後日Wikipediaをあたるという、「マンガ、アニメ立国の国民としてあるまじき体たらく」だ。実際、フランス人に マンガ、アニメネタを振られてまるで答えられなかったときの彼の残念な顔が忘れられない。しかしこの本を選んだのは正解だったかもしれない。それは
-登場人物がほとんど高校生で、高校を舞台にしている。読者が同年代からそれよりちょっと上と想定すると、翻訳の際には口語には細心の注意が払われているに違いない。
-4コママンガである。長い話ではマンガでさえ途中でくじけるが、4コマならどうにでもなる。躓いても数コマ後にはもう新しい話だ。
-しかし登場人物のほとんどすべてが女性というのは問題かもしれない、表現上。職場での私の部署は化学ラボ関連で上から下まで見てなんとアムネスティもびっくりの男女構成比5/5であり、ゆえに私が日々会話からコピペする表現がオンナのこっぽいと指摘されたことがあった。
あらかじめ断っておくが、当サイトはフランス生活情報と娯楽情報のサイトであるが、当ページは例外的にフランス口語習得のための教育的、学術的アプローチを紹介するというスタンスを取っている。著作物からの引用もただのコピーは違法だが、学術目的ならその限りで無いからである。さあ、お勉強のはじまりです。本文から、口語の口語らしい表現をピックアップして紹介しよう。

"Quel titre pourri..."
中表紙裏のせりふだが(誰だろう?登場人物の顔と名前がほとんどわからない)、「なんつータイトル・・・」みたいな感じ。Pourriは会話では意味が強かったり弱かったり。それにしても何よ、あずまんがって、大王って。

"Il ne faut pas l'embêter son prétexte que c'est une sale gamine qui travaille bien"
飛び級小学生Chiyoの紹介での先生のせりふ。un (une) sale gamin(e)は汚いわけではなく、ガキみたいな感じ。多少ネガティヴに。gamin(e)のみなら比較的ニュートラル。一語ならgosseでクソガキみたいな表現もある。

"Chuis enchôntée de ch'faire vot'conaichance !"
"Bah, j'ai bô v'nir d'Osaka, mais..."
大阪からの転校生、Ayumi Kasugaの自己紹介。大阪弁のように違った発音、アクセントのつもりなのだろう。しかし実際のところje suisは早口だとch'suisあるいはchuisのように発音される。
"Bah pourk wô"
クラスメイトのボケに突っ込みをいれるときのせりふだが、なんだろう?わからない。

"La ferme ! silence !"
Silence単独なら「お静かに」のような比較的ていねいな表現だが、La fermeはストレートに黙れであり、フォーマルな場ではつかわないだろう。

"On peut pas s'mesurer à un génie..."
フランス語の否定形文はne ... pasが基本だが、口語ではneが無いか聞こえなかったりする。選出のjeと同様に、しかも完全に母音が抜けて無声音になる。e発音記号で[ə]のかなりが現代口語で消えつつあるのだ。

"Ta gueule, tu vas me faire oublier ?"
Ta gueleでLa ferme相当の黙れ、うるさいという意味になる。

ça y est pas
これはça y est、よし、OKのような表現の否定形だが意味は単純な否定とは限らない。驚きが少し入って「うそでしょう?」とか「だめじゃん」とか「まじかよ」みたいな意味にもなる。

"Dis donc, Osaka, à propos du contrôle de maths..."
"Osaka ? hein ? C'est moi ?"
"Bah oui. tu viens d'Osaka donc ton surnom c'est Osaka"
Dis doncはねえ、ちょっとのようなものでそれ自体意味は無い。
heinそれにたいしての相槌ので、え、何?みたいな感じ。
Bahは単独だと、ああ、そう、へえ、のような無気力な返事だが、Bah ouiとくればそうでもない。

Purée, je les ai complètement foirés, zut!"
Puréeはマッシュポテトではない。これで「なんてこったい」という意味。
foirerはしくじった、zutはチッと舌打ちのシチュエーションで。

"Hahahahah. Eh bien moi j'ai eu 100/100."
"Elle avait vraiment bossé alors."
bosserは口語でよく使われる、働くという意味。

"Pierre Feuille Ciseaux"
いし、はっぱ、はさみ。はっぱはいしより強く、はさみははっぱより強い。これは日本から輸入されたものと思っていたが、何人ものフランス人が否定していた。

"Je suis nulle à pierre feuille ciseaux."
苦手。

"Ceux qu'j'ai vus à la tél´, y z'étaient ..."
発音に注意。

J'en ai marre de vous apprendre tous le temps l'anglais"
もううんざり、ということ。

今度は擬音、擬声、擬態をいってみよう

すでに紹介した分と重複してるかもしれない。
Euh ... うーん、うーむ。
Hein ? ええ?何?
Bah ああ、ええと、まあ。
Ouais ! Ouiのくだけた表現、英語ならYeah、イエーイ。
Ouah !
Hé いくつかの意味があります。おいちょっと、へえ、そうなの。
Aïe 痛っ。
これらは擬音、擬声、擬態いずれでもなく、れっきとした話し言葉である。実際の会話ではこんな「音」が頻繁に聞こえてくるが、これが話の雰囲気、ムードを作ることも多々ある。相手の喜怒哀楽と関心の有無とか。会話なら場数を踏まないとわからないが、マンガからなら状況を確実につかめるのでわかりやすいであろう。
Bla bla bla ...
Pfuhuhuhuhu はふっ・・・ちょっとためいき(わかるかな?わかんだいだろうな)。
Ding dong 玄関チャイムがなっているように感じますか?
Bolong ゴットン、自販機で缶飲料がでてくるところでつかわれていた。
Zouim zouim ぐりぐりっと動かすようす。
擬音、擬声、擬態語はもう雰囲気というかノリというか。Don't think, feelである。

3連発!!!
mangacours2mangacours3mangacours4
これは擬態語としてはかなり難しいと思う。そして言葉だけ、絵が無い状況で読んでもまったく理解できないであろう。フランス人はこの言葉の音でこの状況を想像できるのだろうか?

mangacours5
一方、これはわかるかも。

フランスでイヌネコはなんて鳴くだろう?
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人が泣くとき、ベソかくとき。
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さあ、いかがです?語学の教材としてはなかなかだったでしょう?えっ?こんな本、恥ずかしくて手が出ない?私だって日本に住んでいたらこんな本に手を出しませんよ。おそらく日常生活でこのマンガにめぐり合うことも無かったでしょう。それにしても不思議な世界です。私がマンガ世代だった10数年まえにも、少年誌に女子高生が主人公のマンガはありましたが、登場人物がほぼすべて女性というこの設定は一体何なんでしょう。
えっ?引用画像のキャラの偏りが?・・・いや、なんかその、小学生のほうは論外として、背の大変大きくいらっしゃる方、デジャヴュってやつですか。当時その雑誌はとんでもない発行部数をほこっていまして。で肝心のタイトルですが、ええと、きまぐ・・・じゃなかった、ツンデレみかん横丁・・・って何?


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