Mon dieu!


世界最大の核開発国フランスでは高速増殖炉として3基、最大のものは実証炉と呼ばれる実際の運用のための原子炉建設までこぎつけた。その名もスーパーフェニックス。間違い無くこの分野でフランスは世界一である。核燃料再処理といえばフランス、イギリス、ベルギーで処理能力ではやはりフランスが一番である。日本向け核燃料の輸送船がCherbourgの港を出る様子は良くニュースに登場する。もちろんプルサーマルも日常茶飯事である。ところが相次ぐ事故で世界の高速増殖炉開発はほぼストップ、今の技術では手におえないと言う判断である。イギリスも早々に断 念。旧ソ連は資金不足、アメリカは核燃料リサイクルの研究そのものから離脱である。高速増殖炉に関して日本はフランスにかなり遅れを取っているが実験炉常陽、原型炉もんじゅまで進んでいる。高速増殖炉開発を国家レベルで行っているのはもはや日本くらいである。

もんじゅといえば1995年のナトリウム漏れ事故を思い出させられるが、フランスでの事故はそんなものではない。ナトリウム漏れ、それに伴う火災、出力異常などなど合わせて10数回。金はかかるが先の見えない巨大プロジェクトに首相のジョスパンはお手上げ。所信表明演説演説で廃止を宣告である。フランスで頓挫し、世界が見捨てたこの技術ももしかすると日本がモノにできるかもしれないのである。しかし日本の場合、事故の種類や規模、技術力よりもそもそもの管理体制や事故を隠蔽する体質が問題であり、原子力技術の根底にある安全神話そのものが問題なのである。事故の重大さで言えば1999年の東海村JCO事故のほうが上である。しかしこれも事故のレベルよりも管理体制のほうが問題である。原子炉外で核分裂連鎖反応が日本で起きたのは長崎に原爆が投下されて以来のことである。

もんじゅのことをフランス人に話すと
「どうせうまくいくはずがない、最後は神に祈ることになる」
という返事。
Mon dieu!
英語で言うと、My god !日本語では南無阿弥陀仏である。

原子炉では通常ウランが燃料として使われている。天然のウランには0.7%しか含まれていないU235を3-4%まで濃縮されたウランを使用している。ここでいう濃縮とは同位体の濃縮であり、いわゆるウランの濃度ではない。残りの96-97%はU238である。このU235が燃料として使われる。U235の崩壊により飛び出した中性子が別のU235にぶつかりこれもまた崩壊するという連鎖反応、それに伴う熱によって蒸気タービンが動かされて発電される。中性子はU238にも衝突して稀にPu239を生成する。このPu239もU235同様に一部は核分裂連鎖に関与し残りは残留する。使用後の核燃料 には使いのこしのU235、生成したプルトニウム、残った大多数のU238そして核分裂で生成した雑多な重金属類というものが含まれる。
このうちU235、U238は分離後再度使用することが可能である。生成したPu239もウランと混ぜて核燃料として再利用できる。これがMOXと呼ばれる核燃料である。プルサーマル運転によりこのPu239も核燃料に使えると貴重なU235の使用を削減できるのである。
原子炉運転に必要なU235同位体濃度が3-4%であるのに対して天然ウラン中のU235濃度はたったの0.7%。大部分のU238が過剰に存在している。これを積極的に使用可能な核種に変換しようとするのが高速増殖炉である。高エネルギーの中性子をU238に当てるとPu239が収率30%程度で生成する。これをプルサーマル核燃料として使用するのである。
そこで気になるのは原子力が本当に地球環境に良いかどうかである。原子炉での発電では当然のことながら二酸化炭素の排出はほぼゼロである。鉱石からのウランの精製、燃料の製造、再処理、廃棄物処理、耐用年数の過ぎた炉の破棄、すべてを含めて本当に火力発電と比較してメリットがあるのかどうかがポイントである。地球温暖化、二酸化炭素排出という観点だけでなく多角的に見てである。ただし原子力が多少化石燃料に劣るとしてもそれなりにメリットはある。石油はエネルギー源として燃やしてしまえばそれまでだが、一方で化学合成の原料となる貴重な資源である。石油=物の原料としての資源、核=エネルギーとしての資源ということになる。

核燃料サイクル開発機構でまたちょっとした事故があったのは残念である。今回もまた原子力技術とは程遠いところに問題があるようである。

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