TGV


tgv1 出張でリヨンに行く用ができて移動はTGVとなった。フランスが世界に誇る高速鉄道に乗るのはこれが初めてで、仕事でとはいえ楽しみであった。 出発は早朝のパリ、リヨン駅/gare de Lyon。リヨンに行く電車の始発がリヨン駅とはまた単純な。ではリヨンにある駅はなんて名前だろう?パリ行きの駅だからパリ駅/gare de Paris?駅はヨーロッパ独特のターミナル駅でホームは終点側末端でぜんぶ横につながっている。ちょうど上野駅の地上階ホームのように。しかし改札が無くホームと外が筒抜けである。
往路は写真のようなTGV標準型である。この形は初代のオレンジ色のものとほとんど変わりないように思うがどうだろう?ちなみにこのデザインでピンと来たのが、ルノー/Renaultのミニバン、エスパス/Espaceでその初代モデルがまさにこの形であった。もちろん登場時期から考えてエスパスの方がずっと後であろう。一方、最近フランスの市中でも見かけるようになったトヨタのPrevia、日本市場ではエスティマ/Estimaと呼ばれているあのモノスペースミニバン、これはどうも300系新幹線のぞみ(今はひかりに格下げ?)と瓜二つである、と思う。たくさんあるホームにいくつか並ぶ電車から目的のものを見つけると早速乗り込む。日本の新幹線のような愛称は無いようである。
手配されていたのは一等車の切符で、座席はずいぶんゆったりし、一列に2+1の3席しかない。が、どうも車幅は新幹線より小さいような気がする。社内の雰囲気はやはりヨーロッパ風であり、日本の新幹線のようなハイテクにふさわしい機械的で清潔で明るいという車室とはおおいに異なる。ところが窓枠の上辺に水平に設置された暖色系蛍光灯は、乗客の目線の上で燦々と輝く直接光照明である。それ自身格段明るいわけではないが、読み物をしていても、黙って座っているだけでもまぶしくて目が疲れてしまう。これはいただけない。

tgv3 欧州の電車は発車ベルもアナウンスも無く静かに走り出すというが、日本の駅の喧騒とは違うが実際にはいろいろうるさかった。パリのメトロの新線や新車両もいまや自動音声アナウンスが入るご時世である。発車してしばらくはのろのろで、都市部はやはり東京−大宮あるいは東京−新横浜みたいなものだ。高速運転に入ると結構な速度が出ているはずだがあまりスピード感は無い。軌道が新幹線のような高架ではなく地べたで周りが延々畑だったりする。新幹線なら窓のすぐ外に結構な高さの防音壁があったり、架線の電柱がびゅんびゅん通り過ぎて風景の変化も著しいのでスピード感がある。もしかするとTGVのゆれの少なさが一因かもしれない。連接車両、客車の連結部分の中間真下に台車があるこの構造は車両間揺動が起こらないそうな。また、列車1編成の先頭と末端にある電気機関車が列車を押したり引いたりするので客車にはモーターが無いため静寂なのであろう。鉄道では世界最速の一つで時速300kmを達成しているはず。最後に乗った最も速い電車がつばさ山形方面行き、300系のぞみ博多行きなのでそれらより速いはず。
リヨンは街中ではなく郊外の駅、リヨン・サンデグデュベリ空港駅に到着。空港とTGV駅が併設された妙な駅である。すごいことにこの駅、TGV専用駅にして電車に乗る以外何の用も足せない殺風景なところでである。一方、空港の方はお土産屋、レストラン、バーなどなどはずいぶん華やかであり対照的である。リヨンに用がある人はたいていリヨン市内に在来線経由で乗り入れる電車を使用するのでここは乗り継ぎ駅に過ぎないのかもしれない。そう、在来線もTGVとおなじ規格の線路を走るフランスでは、TGVはどこへでもいけるのである。 仕事が終わって復路はデュプレックス/Duplex、二階建て車両だった。しかも座席は二階。往路の従来車両よりも新しいだけあって車内はきれいで、まぶしすぎる照明もそれほどでもなく良かったのだが、ひとたび走り出すとゆれがひどい。往路の静寂さが嘘のようであり新幹線にも劣る。もしかすると一階はゆれないのかもしれない。電車は総二階建てで客車間の連結部分も二階があり、車両間移動に階段を下りる必要が無い。

早朝と夕刻の移動で食事は二度とも車内のビュッフェで取ったが、どうも期待はずれである。出てきた食事は所詮こんなものと割り切れるが、もちろん質感では日本の駅弁あるいは車内販売弁当にも大きく劣る。期待はずれだったのはビュッフェ車両の造りでまるでショッピングモールのカフェテリアのようである。昔、1990年代の半ばに九州で乗った、おそらく当時日本で一番豪華であったであろう特急つばめの優雅な内装、個室やコンパートメント席や、くつろげるビュッフェ車両、車窓の海を眺めワインを飲み、ヨーロッパの優雅な鉄道のたびに思いをはせたものが・・・そういえばあのつばめの先頭車両の顔つきはなんとなくTGVに似ていなくも無い。黒いスーツの女性乗務員が深々とお辞儀しながらホームに入る車両を迎えていたのを思い出すと、設備でも、サービスの面でもつばめはTGVの上だったのではと思う。スピードはさすがにかなわないが、あのような電車ならゆっくり走っても長く乗っていたくなるものである。
さて、出張にカメラを持っていったわけでもないので写真がまるで無く、電車の写真も別件で撮ったもので、もしかしたら別の駅、モンパルナスあたりで取ったものだったかもしれない。

tgv4 さて、さて、後日、日本に行く用事があり新幹線で首都圏から九州の往復をする機会があった。そう、最後に乗った新幹線は300系のぞみで、以降新造されたカモノハシのような電車やジェット戦闘機のような電車は指をくわえて見ているだけだったがようやくチャンス到来。最高速度の出る山陽新幹線区間での700系カモノハシは揺れでTGVに劣ってしまうが、500系ではトンネル突入時のドーンという衝撃以外はTGVと同等と感じられた。パリ−リヨンには最高速で入るトンネルが無かったかも。車内からもはっきりわかる円筒形の断面は居住性を悪くしているのかもしれないが、こんな電車こそ技術国日本のレゾンデートルそのものである。なんともかわり映えのしないTGV一族や、つい最近韓国で開業したKTXに比べると日本の新幹線車両はずいぶんいろいろ試しているものです。それにしても機能を追及してたどり着いた意匠というのはなんとも美しいものか。TGVもその美しさがあるのでしょうが長く居続けすぎたのかもしれません。フランスの究極の機能美の例ならばTGVよりも今は無きコンコルドの方が上かもしれません。

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