そば打ち


☆☆手打ちそば(星二つです)

当、パリ代用和食研究所では長らく、おうちで作るおいしいおそばの研究を続けてきたが、このたびそのレシピが完成の域に達したのでここに報告する。実際にはそば打ちよりもうどんのほうを早くから着手しており、こちらも及第点以上に達しているがまだ微調整の必要があること、そして打つのに必要な圧倒的な時空間的リソースとその結果得られるベネフィットの差によりそば優先された。なおここにあるレシピに至る道のりにはネット上にあまたある日本のそば打ち情報が死屍累々と転がっている。初期の試作では麺の長さ最長でも5cmという失敗作が食卓に上った。このあたりで「地上の星」が聞こえてきてほしいものだ。このレシピはさしあたってフランスで打つそばにの最適解のひとつであろうが、日本の本格的なそば打ちから遠ざかっている可能性もある。それでははじめよう。

そば粉まずはそば粉。フランスには通称「ガレット」と呼ばれる、ブルターニュ地方を本場とするそば粉のクレープがあります。チョコレート、ジャム、果物、クリームが入ったお菓子のクレープではなくハム、卵、その他が入った食事のクレープなのである。スーパーマーケットの粉売り場にはそば粉がFarine de sarrasinという名前で見つかります。この粉を手に取るとすぐにわかりますが、日本の上品なそば粉、とくに更科そばと呼ばれるものに使われるものに比べるとあきらかにザラザラしてそばの実の粉以外にかなりのガラ成分がふくまれています。つなぎ良さと食感の向上のため半分近くを小麦粉にする必要があります。写真左に写っているのは打ちでいつも使っている、多くの店で見つかるそば粉です。無農薬BIOショップにはもっとよさそうなものがありますが、いずれもガラ成分多目でつながりが悪いです。混ぜる小麦粉は強力粉(普通のもの、通常赤パック)でTYPE45-65でOKです。ちなみに写真右の粉はコーンスターチ。打ち粉にはざらざらしたそば粉ではなくこちらを使用します。

そば粉を混ぜるさあ作業開始です。そば粉200g、小麦粉200gを大きなボウルにとりよく混ぜます。ここに水160-170mlを少しづつ加えては粉を混ぜます。水が均一に粉にいきわたり、吸収されるように粉はひっきりなしに混ぜている必要があります。このとき、水を含んだ粉は大きなダマになるのではなく極小のダマがたくさんできるように。もちろんそのためには粉の量に応じた大きなボウルが必要です。写真の直径30cmのボウルでこの分量が限界です。水を全部加えたときがこれ。ダマは小さいほどいいです。ここまで、作業スタート、材料の計測からはじめて約5分ほど。

そば粉をこねる小さなダマを集めて練って大きな塊にします。一見ぼそぼそのダマダマも力を加えると粘土のように一体となります。水が多めだとここの力が少なくてよいですが、後に切ったときくっつきやすいです。しかし最低限必要な水の量もあります。開始からここまで約10分。

そば粉をこねるパスタマシンの登場です。もちろん手で伸して、包丁で切ってもかまいません。しかし粉のガラ成分の多さゆえのつながり悪さはここで差が出ます。麺棒に巻きつくように薄く延ばすのは高度なテクニックが必要ですし、包丁切りではブツ切れ麺がたくさん出てしまいます。パスタマシンは手抜きではなく必要なのです。お好みの厚さに伸ばします。切りの前には両面に満遍なく打ち粉のコーンスターチを使います。
続いて麺を切ります。お好みの太さと言いたいところですが、パスタマシンに太さの微調整はできません。必要ならば麺の厚さであわせるしかありません。しかしスパゲッティの太さは丁度いいです。パスタマシンを通って出てきた切れた麺はたいへん切れやすいです。丁寧に出てくる麺を手で取り、打ち粉を振るっておきます。打ち粉があまいと麺同士がくっついてしまい台無しです。ヨーロッパは乾燥しがち。麺はあまり長時間このよには置けません。10分もすると表面が乾きつつあるのが手触りでわかります。乾くと麺はより壊れやすくなります。開始からここまで20分弱。なので打ちあがりにあわせて湯をわかしておくことが大事です。

そばを切る1 そばを切る2 出来上がったそば

そばをゆでるお湯が沸騰した麺を投入。ゆで時間は1-1.5分。水道水のミネラル成分のせいか、蕎麦湯はあまりおいしくありません。また、打ち粉のコーンスターチが強いです。ゆで初めに麺がくっつかないよう軽く箸でまぜますが、これもはやり丁寧に。ゆでている間に麺をつまもうとするとわかりますが、麺はとてもデリケートで、この段階がこれまででもっとも千切れやすいです。

そばをゆでる そばをゆでるゆでが終わったら一気にざるにあげます。通常、麺はさるのなかで流水を使って洗うものですが、そうすると麺は粉々です。そのため麺は完全に空けた麺をゆでたなべに戻し、そこに冷水を注ぎます。なべがあふれても水は止めず、なべの中の流水で麺をゆらゆらと洗い、締めます。普通、そばをゆでた後、やってはいけない洗い方ではありますが、流量たっぷりの冷水でどんどん冷えるなら問題ありません。もちろん温水に浸っているようではダメです。ここで麺が冷えて締まると、あの脆弱だった麺がしっかり丈夫になりしこしこ感も出ます。

できあがり最後に水切りのザルに上げ、お好みの盛り付けを。お好みで刻みのりやわかめを。普通、渡仏するのにザルそばのザルを持ってくる人もいませんが、ウチは「フランスでザルそばを食べたらどうだろう」という思いつきで引越し荷物に入れました。
味はと言うとなかなかなものです。もともとガラ成分の多いそば粉なので小麦半分でもかなりの香りと食感が残っています。おいしいたれは作るのが大変なので市販品。日本食材の店で3倍濃縮タイプが500mlで6-7ユーロ。ネギはポアローのいい部分を刻んで。わさびは最近どこででも手に入ります。
山芋を入れればいいじゃないか!という声もありそうですが、どうも山芋を入れただけではどうにもならないようです。日本から持ってきた山芋の粉やこちらの山芋を試すも、それだけでブツ切れがおさまることはありませんでした。各種粉のブレンドも効を奏さず。同時期に日本から入手したそば粉で7割そばを打ったところ、かなりいい線いっていたので、技術とは別に何か違いがあったと解釈してここに至りました。


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